【コラム】今さら聞けない電子契約
「電子契約って何?契約方法に規則はあるの?」「電子署名とは?印紙税は本当に要らないの?」「どの電子契約サービスを選び、どう管理すればいいの?」など、よくある質問とともに解説します。
※この記事は2023年2月2日・3月22日「ニッキンONLINE」にリーテックスが寄稿したものを再編集し掲載しています。
働き方改革の推進や新型コロナウイルス蔓延により、多くの企業でリモートワークが日常化しています。
そんな中、リモートワークでも契約業務をストップさせない電子契約に切り替える企業が増加し、契約相手から「電子契約でお願いします」と依頼されることがあるのではないでしょうか?
便利な電子契約
以前は紙の契約書に印鑑を押して印紙を貼り、契約書を作成、そして返信用封筒を付けて、場合によっては書留で郵送していました。しかし、電子契約はパソコン画面で電子署名のボタンをクリックすれば契約締結が完了します。
印紙も必要ないため、郵便局に印紙を買いに行くことや、金庫に印紙を保管する手間もなくなりました。なんといっても、これまで郵便のやり取りで1週間ほどかかっていた契約締結があっという間に完了し、コストだけでなく時間も節約できて非常に便利になったことを感じます。
しかし、契約は重要な業務であるため、以前は必要だった印鑑や印紙がなくて本当に大丈夫なのかと不安に思う方も多いことでしょう。
契約の締結方式に法律上の一般的な規制は無い
日本の法律では、契約に関する原則を民法で定めています。
民法522条2項では「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、これは「契約の締結には、印鑑や署名が必ずしも必要ではない」ということを意味しています。
日本では口約束でも契約でき、電話発注でも発注は成立するのです。
契約締結はどのような方法でも良いとされているのにも関わらず、これまでなぜ印鑑や署名が必要だったのでしょうか。
実は、契約書の大事な役割は、契約に合意した内容の「確認」と「保存」です。複雑な契約内容を口約束で終えるわけにはいかず、互いに証拠として保存しておくものが契約書なのです。
これにより、ほとんどの契約書の末尾には「本契約を証するため本書 2 通を作成し、甲乙記名捺印の上、各 1 通を保有する」という文言が加えられています。
つまり、契約書は締結のためにあるのではなく、契約内容の確認・記録のため「証拠」として保存するものなのです。
ところで、契約締結には「民法上の規制はない」と説明しました。
契約の締結の仕方に規制がないため、電子契約に対する法律上の定義や規制もありません。つまり「これが電子契約だ」という一元的な決まりがなく、様々な電子契約があり得るということになります。
個別の法規制に注意
ここで、少しややこしいことをお伝えすると…
契約の締結方式に規制はないが個別の法律による規制はあります。
例えば、お金の受け渡しがある契約書は、法人税法により保存義務が存在します。電子契約であれば、電子帳簿保存法の要件を満たした方法で保存しなければなりません。また、建設業法では契約書の交付が義務となっており、電子契約で行う場合は本人確認やシステム上の要件があります。その他にも、個別に様々な法規制があることは覚えておきましょう。
証拠となる契約書
さて、日本では契約締結に関する原則を民法で以下のように定めています。
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
契約締結の方法に関する一般的な規則はありません。
マンションの賃貸契約や雇用契約のように個別の法律で(電子契約を含めた)書面交付が求められるケースはありますが、一般的には電話でもメールでも、対面の口頭でも契約は締結できます。
では、契約書はなぜ必要なのでしょうか。
契約が成立しているかどうかや契約内容が問題となるのは、契約の当事者間で紛争となったときです。
裁判になった場合は、自身の主張を裏付ける証拠が必要となり、口頭で合意しただけの契約では「言った」、「言わない」の水掛け論に陥ってしまいます。
万が一、裁判となった場合に契約が成立していることや契約内容について証拠として提示できるのが「契約書の価値」といえるでしょう。
証拠として認められる契約書とは
では、証拠として認められる契約書とは、一体どのようなものでしょうか。
まず、「契約」と「契約書」は異なるということを理解しておきましょう。「契約」は当事者間の合意であり、「契約書」は契約の内容を表示する文書で、証拠となるものです。裁判で何が証拠になるのかを定めているのは民事訴訟法であり、証拠として文書が使えるかどうかは、以下のように定めています。
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5 第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。
文書などに本人の意思が反映されているかどうかは、実は難しい議論であり、印刷された文書だけでは誰が作成したか確認できません。
本人の意思によらない文書(本人確認していない文書)をいくら厳格に保管したとしても契約書の有効性にはつながりません。契約書として有効に機能するためには(すなわち、裁判において契約書を証拠として利用するには)、文書が次の2点を満たしていることが必要で、これをもって文書の「形式的証拠力」があるといえます。
- 契約者本人による作成が確認できること
- 改ざんされていないことが確認できること
契約者本人による作成の確認が、この民事訴訟法で「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と規定されています。
そのため「形式的証拠力」が必要となるのです。
自身が関わった契約が裁判に発展するなどとネガティブな想像はしたくありませんが…
「備えあれば患いなし」という言葉もあるように、万が一に備えて日頃から準備しておくのが大切です。
電子署名とは
まず、電子契約とは、ほとんどが契約のファイル(PDFファイル)に電子署名とタイムスタンプを入れたものです。「電子署名あっての電子契約」と言っても過言ではなく、電子署名の技術が無ければ、そもそも電子契約は生まれていないでしょう。
前回のコラムで「契約方法に規則はあるのか」を説明しましたが、民事訴訟法第二百二十八条4項で「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と定められているため、電子契約が形式的な証拠力を持つには、電子署名が必須の条件となります。
電子契約を語る上で最も重要な電子署名ですが、実際どのようなものなのでしょうか。
法律上は電子署名法(正式名称は「電子署名及び認証業務に関する法律」)が、早くも2000年に定められました。これによる電子署名の定義は次の通りです。
前回説明した形式的な証拠に必要な次の2点は、まさにこの法律でも必要と定められています。
- 契約者本人による作成が確認できること
- 改ざんされていないことが確認できること
ただし、一般的な技術的要件は定められていません。
主務大臣の認定を受ける「特定認証業務」については技術的な要件が省令で定められていますが、電子署名そのものは上記の2点が確保されていれば、技術的な定めはありません。
電子署名は目に見えない
ところで、電子署名法で「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう」と記載されている通り、電子署名をわかりにくくしている理由は、目に見えないものだからでしょう。
電子契約サービスで電子署名として印字されているケースがあるのは、電子署名そのものではなく「電子署名をした」という行為を示すマークなのです。
対象ファイル
さて、現在使用されている多くの電子署名スキームは、対象ファイルをデータ接続する電子署名の認証局で特定し、作成者の名前を認証局が証明するというものです。
日本で使われている電子署名は、ファイルの特定方法としてファイルの圧縮値(ハッシュ値)を計算し「登録されている圧縮値と同じなら、もとのファイル」と認定するものです。したがって、ネットに接続されていることが電子署名利用のインフラ条件となります。
一方、使いにくい大きな要因は、電子署名のデータ付与がPDFファイル一択であることです。電子署名の存在を確認する方法としては、Adobe社が提供するAcrobat Readerの署名パネルとその拡張機能での対応しかありません。
印紙税とは
ここまで電子契約を行う際に不可欠な電子署名について説明したところで、電子契約を導入する「最大のメリット」についても解説したいと思います。
電子契約を導入する際の最大のメリットは、印紙税がいらないことです。
印紙税とは、印紙税法で定められた課税文書を作成した場合に課税されるもので、国税庁の説明によると、課税文書とは下記の通りです。
- 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
- 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
- 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
※「国税庁ホームページ No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断」より
また、代表的な課税文書は下記の通りです。
第1号文書 不動産などの譲渡、地上権などの設定、消費貸借に関する契約、運送に関する契約書
具体的には、不動産売買契約書、不動産交換契約書、不動産売渡証書、土地賃貸借契約書、土地賃料変更契約書、金銭借用証書、金銭消費貸借契約書、運送契約書など
第2号文書 請負に関する契約書
具体的には、工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など
第7号文書 継続的取引の基本となる契約書
具体的には、売買取引基本契約書、特約店契約書、代理店契約書、業務委託契約書、銀行取引約定書など
第17号文書 売上代金に係る金銭または有価証券の受取書、売上代金以外の金銭または有価証券の受取書
具体的には、商品販売代金の受取書、借入金の受取書、保険金の受取書など
電磁的記録は非課税
印紙税を必要とするものは多岐にわたりますが、いずれも文書であることが条件となります。税法上では、電子契約などの電磁的記録は文書ではないため、課税対象ではありません。
実際、福岡国税局が下記のように回答した事例があります。
印紙税法に規定する課税文書の「作成」とは、印紙税法基本通達第44条により「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」ものとされ、課税文書の「作成の時」とは、相手方に交付する目的で作成される課税文書については、当該交付の時であるとされている。
上記規定に鑑みれば、本注文請書は、申込みに対する応諾文書であり、契約の成立を証するために作成されるものである。しかしながら、注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。(福岡国税局文書回答事例より)
印紙税はあくまで”文書”に対するものであり、現在のところ電子契約や電子領収書に印紙税は課税されません。
とはいえ、税の公平性という観点から「電磁的記録に対しても課税すべきではないか?」との指摘もあるため、将来にわたって課税されないとは言い切れないのも事実。
社会の電子化に関する法制度や規制の変化は激しいため、特に税制の変更については注意する必要があります。
電子契約サービスの選び方
電子契約サービスを選ぶ際、最大のポイントは「何の契約に使うのか」です。
契約と言っても千差万別で、アルバイトの雇用契約のような少額かつ短期のものから、ビル建設のような高額かつ長期保存のものまで様々あります。
さらに、個別の業法などで規制されているケースもあるため、まずは、どのような契約に使うのかを確認しましょう。また、月の契約数や上司に決裁をもらう必要があるかどうかもサービスを選ぶ際のポイントになります。
一方で、電子契約の大きな役割は、締結の可否よりも、法的証拠になるかどうかです。
電子署名法の第3条で「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る)が行われているときは、真正に成立したものと推定する」と規定されています。
この条文により、日本法上の電子署名が付与されている電子契約には証拠力があると見なされますが、海外の電子契約サービス(ソフト)を利用する際は注意が必要です。
電子帳簿保存法に準拠しているかを選択基準に
次に、契約を結ぶ「目的」は何かを考えたとき、ほとんどの契約は「金銭のやり取り」であると想像できます。
このような契約は、税法上7年以上の保存が義務付けられています。また、電子契約であれば、電子帳簿保存法の規制を受けるため、最低でも「電子帳簿保存法に準拠していること」を選択基準にした方が良いでしょう。
特に、電子帳簿保存法の検索要件を満たしているかどうかに気を付けなければいけません。これらは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(略称:JIIMA)が認定を行っており、認定ソフトの一覧も掲載しているため、ぜひ参考にしてください。
本人確認が課題
さて、残る課題は本人確認です。
電子帳簿保存法は、保存の要件を定めている法律であるため、本人確認の規定はありません。
しかし、電子契約の要件を個別に定めている建設業法などでは、本人確認・身元確認を行うよう定められています。このため、対象の契約が個別業法の規制対象なのかを確認しなければなりません。なお、電子契約ソフトによっては、個別規制に対応した本人確認・身元確認が十分でないケースもあるため注意が必要です。
セキュリティの強度や本人確認のレベルについては、契約の重要性によって個別に判断し、各電子契約ソフトで大きな違いがあることを理解したうえで選択しましょう。
紙と電子の混在管理は、紛失リスクが発生
ここまで電子契約サービスの導入を前提に解説してきましたが、現状「紙の契約がしたい」という取引相手も多く存在するため、すべての契約を電子化するのは難しいでしょう。
実際、下請代金支払遅延等防止法(下請法)では、3条で「当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる」と規定しています。
下請取引での電子契約化には相手の同意が必要で、もちろん強要することはできません。そのため、当面「紙の契約書と電子契約書」が混在する状況がつづき、この2点を合わせて管理することが必須となります。
また、電子契約にも様々なサービスがあり、取引先との関係で利用ソフトを変更したり、社内でも発注ソフトと人事労務管理ソフトで連携した電子契約が異なったりすることは、よくあります。
ここで大事なのは、保存は一元管理でなければいけないということです。
紙で契約することの難点は、紛失するリスクがあるということ。通常、契約書は顧客対応の際に必要なため、支店で管理するケースが大半です。しかし、本社の管理部門や複数の部署でも必要になると、紙の契約書が複数個所で行き来するため紛失リスクが高まります。
契約を一括管理するソフトが便利
その点、電子契約ならば紛失の心配がありません。
紙の契約書をスキャンまたは写真撮影し電子化することで、物理的な保管場所を気にせずにアクセスでき、さらに検索もできます。
なお、電子帳簿保存法やe文書法により、紙の契約を法規制の要件通りに電子化すれば、紙の原本を廃棄することも可能です。
紙の契約書を電子保存して一括管理するメリットは極めて大きいため、コストはかかるものの「一考の価値がある」とお伝えしておきます。
一方、電子化しても異なるソフトウェアを並行利用すると、ファイルの保存場所がわからなくなる恐れがあります。電子契約書をダウンロードして自身で保存することも可能ですが、検索や期日管理を考えると、契約を一括管理できるソフトの導入を強くお勧めします。